紅花について

紅花とは,私が学生時代にたまに行っていたラーメン屋のことである。

なぜ,こんな話を書くかというと。 全さん@詰将棋の杜 が春休みにきちんと帰省などしているのを見て,私は(実家が同じ東京だったということもあるが)家を出てから帰省などは一度もしなかったなぁと昔のことを思い出したからなのであります。

紅花はとっても恐いラーメン屋だった。暗いのである。

店の外から見ても,中は暗く,開いているのやら閉まっているのかわからない。でも,開店中なのである。

中に入っても店内は暗い。テーブル二つが並んでいるだけの店内に30ワットくらいの小さな電球が一つだけである。 30ワットといってもよくトイレなどに使う大きさではなくって,直径 3 cm くらいの小さな物である。30ワットもないか,あれは……。

調理場はガラスの向こう側なのだが,こちらもガラスの向こう側は真っ暗の中に赤い電球が一つ灯いているらしいのがうかがえるだけである。あの明るさでどうして調理ができるのか,いつも不思議だった。

おおげさなんではないかと,きっと思われると思う。でも本当なのである。

不思議なことにいつ行っても,客がいる。しかし,その客の顔は本当に暗くて判別できないのである。店に入ると,主人はたいていは客席に座ってたばこを吸っている,ラーメンを注文すると厨房に入っていく。そしてラーメンをもってくる。しかし,主人の顔はわからない。暗くて見えないのだ。

でてくるラーメンは,だからスープが真っ黒に見える。最初は,こんなスープ飲んでいいのかと恐かった。しかし,飲んでみると,一応ラーメンのスープらしい味である。ただし,ガラスープの味は想像してはいけない。うすまった醤油味といった感じだろうか。

麺は,一番ましであった。麺を食べている時だけが,ここは日常の世界なのだとほっとする一時である。

焼き豚は,焼き豚と呼んでいいものなのかどうか自信がない。まず,形も暗くてよく見えないので,焼き豚かどうか見たわけではないということ。歯ごたえは固く,味はない。ただ,ラーメンを注文してスープと麺以外に入っている具だから,あれはたぶん焼き豚なんだろうと想像するだけである。これを食べるのが一番恐い。あの固さに匹敵する物は,ちょっと思いつかない。

なぜ,こんな店にわざわざ行くのか。それは二つの理由がある。一つは午前2時になると,開いている店は紅花とスカイラークと生協前のカップラーメン自動販売機だけであるということ。二つめは,カップラーメンはよく売り切れになっているということ。もしくはフォークがなくなっていたり,お湯がなくなっていたりするということ。これである。

ついでに,紅花は安かった。これも,まぁ,当然ながら当然の理由であったということは,わざわざ書くまでのこともないであろう。

結局,朝食は生協のカレー大盛り卵つき。昼食は生協のランチB。夕食は金のある時は,スカイラークのビッグハンバーグセット(だったかな?)。ない時は,紅花のラーメン。これで,生きていたんだなぁ。あ,バイトの金が入った時は,金ちゃん(定食屋)の鯨カツ丼。これを忘れてはいけなかった。