聖の青春

まったく間の悪い時にこの本を手に取ってしまった。
1泊2日の研修旅行(みたいなもの)に急遽代打で参加することになって,家を出る間際に,下駄箱の隣にある queue本棚からぱっと手に取ったのがこの本だったのだ。

「聖の青春」ISBN:4062100088 大崎善生 著,講談社

聖の青春

大崎氏は「将棋世界」誌の編集長。詰将棋も作られるので全国大会などでお目にかかったこともある方も多いことでしょう。

はじめ,文章がちろちろとつきささった。もっとも,この間読んだ「真剣師 小池重明」の団鬼六と比べては酷だろうか。

しかし,大崎氏の文章は綱渡りの危うさを感じさせながらも着実に村山聖という人間を少しずつ浮き彫りにしていく。

中学1年の村山が親族会議の席で土下座をする段になって,とうとう堪えていた涙が溢れてしまった。

私が研修資料でないものを読んでいたことがばればれである。しかたなく,一旦は本を閉じた。でも,続きを読みたい。翌日,また誘惑に負けて読みはじめた。薄汚いおっさんが涙なんか流してもサマにならない。昨日は油断していたのがよくなかった。今度は大丈夫。……しかし,駄目だった。最後は,もうどうにでもなれという気分である。

涙なぞ流したのは何年ぶりのことだろう。数年前,山田監督の映画で「ニュー・シネマ・パラダイス」を下敷きに渥美清を偲んだ映画があった。「虹〜」というタイトルだったかしら。あの映画のラストでバス停の影から寅さんがひょっと現れた時。あの時以来だなぁ。

「聖」というタイトルで漫画化もされているそうな。しかし,私は絶対にその漫画を読まないことに決めました。ドラマ化もされたとしても,決して私は観ません。大崎さん,私は約束いたします。